【第二部|感受性|再生編・第7回】優しい人に業務が集まる職場はなぜ生まれるのか |非公式役割と組織心理の構造分析

仕事と心―感受性が高い人の仕事の見え方シリーズ

この「感受性の高い人の仕事の見え方」シリーズでは、
職場の中で、人の感情や空気の変化に気づきやすく、
気づかないうちに多くを引き受けてしまう人の体験を扱っています。

一般的には HSP(Highly Sensitive Person)と呼ばれることもありますが、
本シリーズでは、性質を分類することよりも、
「なぜ、優しい人ほど職場で静かに消耗していくのか」
という構造そのものを見つめていきます。

第一部では、組織の力学や役割が生まれる仕組みを。
第二部では、自分を守りながら働き直していくプロセスを描きます。

読み進める中で、
「我慢するしかなかった自分」から、
「選び直せる自分」へ。

その変化の道筋を、静かに辿っていくための記録です。

はじめに|なぜ、何も言えなくなっていたのか

今振り返ると、あの頃の私は、
いつも疲れていました。

でも「自分の意思で頑張っていた」のではありませんでした。


正確には、
頑張らざるを得ない状態に置かれていたのだと思います。

忙しさと責任の中で、
「おかしい」と感じる余裕すら失っていました。

私は――
壊れかける構造の中で、
一人で踏ん張らされていただけでした。

非公式プロマネにされていた私へ

気づいたときには、私はプロジェクトの中心にいました。

正式な肩書きはない。
権限もない。
決定権もない。
評価にもはいらない。

けれど、
・進捗管理
・トラブル対応
・関係部署との調整
・ベンダー対応
・上司への説明

すべてが、私のところに集まっていました。

「なんで私がここまでやっているんだろう」
そう思いながらも、止まれなかったのです。

後で知りましたが、
これは決して特殊な出来事ではなく、
組織では一定条件が揃うと自然に起きる状態です。

【非公式プロマネの特徴】

非公式プロマネ」とはなにか

・決定権がない
・予算に口出しできない
・人を動かせない
・評価に反映されにくい
・失敗時だけ責任を負わされる

非公式プロマネ」とは、組織図には載らない役割です。

名目上は「担当者」  実態は「責任者

でも、責任者に必要な権限は与えられていない。

私はこれを、 **『名ばかりプロジェクトマネージャー』**と呼んでいます。

失敗したら責任だけは負わされる。

最も消耗するポジションです。

気づかないうちに置かれていた“軽い洗脳状態”

当時の私は、こんな思考に支配されていました。

  • 私がやらなきゃ回らない
  • 途中で降りたら無責任
  • 期待を裏切れない
  • ここで逃げたら終わり

これは意志が弱いからではありません。

心理学では、
認知的拘束状態(軽い洗脳状態)」と呼ばれます。

強い責任と不安を同時に与えられることで、
視野が極端に狭くなる状態です。

責任感ハッキングとは何か

― Moral Trapping(責任感への依存誘導)

私は後になって、この状態に名前があることを知りました。

責任感ハッキング
Moral Trapping(責任感への依存誘導)

です。

これは、

この人なら断らない
この人なら背負う

という前提で、責任を集中させていく操作です。

「逃げたら悪者になる」空気の正体

よく使われる言葉があります。

  • 君しか分かっていない
  • 君ならできる
  • もうここまで来た
  • 今さらできる人がいないから
  • 君が降りるなんて無理でしょ

一見、期待のように見えます。

でも実際は、

降りたら裏切り者になる

という空気を先に作る技術です。

「君ならできる」「君がやらなきゃ誰がやる」
という言葉が、私を心理的に閉じ込めていたのです。

結果として、疲れ果てても逃げられない、止まれない
という状態が続きました。

これがMoral Trappingの核心です。

コミットメントの罠

―「宣言した人」と「背負わされた人」が違う構造

本来、コミットメントとは、

宣言した人が、責任を負う

ものです。

しかし、私が置かれていた状況は違いました。

上司が、

「今年はここまでやる」
「ここまでは必ず進める」

と公に宣言する。

けれど――

実務も調整も説明も、
すべて私に集まっていく

失敗すれば、
現場がうまく回らなかった
準備が足りなかった

成功すれば、
マネジメントが機能した

こうして、

宣言=上司
責任=部下

という歪んだ構図ができていました。

これは偶然ではありません。

心理学では、
責任転嫁型コミットメント構造
と呼ばれる状態です。

集団的責任転嫁が始まる瞬間

周囲は助けてくれませんでした。

代わりに、こう言われるようになります。

  • 大丈夫なの?
  • 間に合うの?
  • どうするの?

これは支援ではなく、

集団的責任転嫁

です。

心理学でいう「責任の分散」が起き、
誰も本気で守らなくなる状態です。

本当は誰も責任を取りたくない。
だから、一番まじめな人に集中させる。

無意識に起きる集団防衛反応です。

なぜ「有能で優しい人」が選ばれるのか

この役割を押し付けられる人には、共通点があります。

  • 責任感が強い
  • 投げ出さない
  • 周囲に配慮できる
  • 最後までやり切ってしまう

つまり、 **「断らない、壊れるまで頑張る人」**です。

組織は無意識に、それを見抜きます

この人なら何とかしてくれる

そうして、負荷が集中していきます。

私は、助けられることもなく、責められながら、ただ一人で前に立たされていました。

それはチームではなく、「責任を一人に集中させる装置」でした。

なぜ私は何もできなかったのか

今思うと、歯がゆいです。

「なんで言えなかったんだろう」
「バカだったな」と思うこともあります。

でも当時の私は、

  • 情報を独占され
  • 責任を集中され
  • 孤立させられ
  • 評価を人質に取られ

完全に身動きが取れない状態でした。

それは個人の弱さではありません。

構造の問題です。

決定権も私になかった。

上司に聞けば、 「責任はとるから、全部君に任せるよ」

任されているようで、 実は丸投げです。

この状態が続くと、心は確実にすり減ります。

構造的に判断機能が弱っている上層部

この構造が生まれる背景には、 上層部の問題があります。

それは、 リスク評価能力の低下です。

変化を理解できない。 現場を把握できない。
だから、 「前年踏襲」にすがる。

判断が「前年踏襲」に偏り、新しいリスクを評価する機能が弱っていました。

そして、現場で必死に回している人を 『インフラ』として扱い始めます。

空気のように、当たり前の存在になるのです。

正直に言えば、
「なぜこの状況が放置されているのか」と、何度も疑問に思いました。

しかし今振り返ると、それは個人の能力というより
組織全体が“考えなくても回ってしまう状態”に
慣れてしまっていた結果だったのだと思います。

同じ罠に引っかからないために

もし、今こんな状態なら注意してください。

  • 「君しかいない」と言われる
  • 権限はないのに責任だけ重い
  • 助けは来ない
  • 断ると空気が悪くなる

それは、もう罠の中です。

一人で抱えないこと。
記録を残すこと。
第三者相談すること。

それは逃げではありません。防衛です。

フィードバックなき孤独

私は、褒められない代わりに、失敗すれば指摘される。
うまくいって当たり前、何も言われない。

評価は数か月後。 しかも数字だけ。しかも比率もわずか。

プロセスは、誰も見ていない。

これは心理的に、とても危険です。

私は、存在しているのかな

そう感じるようになります。

抜け出してわかったこと

離れて初めて、見えたことがあります。

あの職場は、

  • 責任を下に流す
  • 権限を与えない
  • 感謝しない
  • 学習しない

典型的機能不全組織でした。

私の問題ではありませんでした。

おわりに|これは“強さ”の副作用だった

そしてもう一つ、
正直に書いておきたいことがあります。

私は、完全に「自発的」に背負っていたわけではありません。

そこには、

・期待を強調する言葉
・失望をにじませる態度
・比較や評価の示唆
・「君しかいない」という圧力

といった、
心理的に逃げ道を塞ぐ関わり方がありました。

はっきりした命令ではありません。

でも、

断ると「悪者」になる
降りると「裏切り者」になる

そんな空気が、丁寧に作られていました。

これは、近年では

誘導型ハラスメント
心理的支配に近い関わり

として整理されることもあります。

私はその中で、
「自分で選んだつもりで、選ばされていた」
状態にいました。


だから、もう一度言います。

これは、能力が低い人には起きません。

✔ 誠実
✔ 折れない
✔ 専門性がある
✔ 人を見捨てない

人にしか起きない構図です。

恥ではありません。
優秀だった証拠です。

同じ景色を見ていた人が、
どこかに一人でもいたなら、それで十分です。

この記録を続ける力になります。
任意で応援いただけたら嬉しいです。

※この記事は、当時出来事の渦中で書いたものです。
今振り返ると、個人の問題ではなく、組織構造によって起きていた現象だったと理解しています

※本記事の内容・概念の無断転載・再配布はご遠慮ください。
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