「産業保健のリアル」さんぽの裏側シリーズ 第2回
どこから読んでも大丈夫ですが、最初から読むと流れがわかります。
産業保健の現場では、
表には出てこない「ズレ」や「違和感」が、静かに積み重なっている。
現場で起きた“ズレ”は、
自然に解消されることはほとんどない。
誰かが引き取って、整えて、
現実として成立させる必要がある。
そしてその役割は、
いつも同じ人に集まっていく。
はじめに
あるケースで、
復職後の働き方をめぐって、話がこじれたことがあった。
本人は体力に不安がある。
できれば在宅勤務も取り入れたい。
一方で上司は、
まずは出社できる状態を確認したいと考えていた。
どちらも、間違ってはいない。
ただ、その間に入った助言によって、
話の方向が少しずつズレていった。
本人の希望は強まり、
主治医の見解も加わり、
気づいたときには、
現場で調整しなければいけない状態になっていた。

誰かが“引き取る”構造
こういうとき、
最終的に何が起きるかは決まっている。
- 方針のズレを整理する
- 本人の期待値を調整する
- 上司の意図を言語化する
- 落としどころを作る
これらを、誰かがやる。
そして多くの場合、
それは「できる人」に集まる。
なぜ同じ人に集まるのか
理由はシンプルだ。
“できてしまうから”
この“引き受けてしまう構造”は、優しさや共感の強さとも関係しています。
- 話を理解できる
- 状況を整理できる
- 相手ごとに伝え方を変えられる
- 最終的にまとめられる
一度でもこれができると、
次も、また次も、同じ役割が回ってくる。
気づけば、
“調整する人”として固定される。
見えにくい仕事ほど、評価されにくい
ここが厄介なところで、
調整の仕事は、
うまくいくほど“何も起きていないように見える”。
- トラブルは表に出ない
- 衝突も可視化されない
- 結果だけが静かに整う
つまり、
やったことが見えない。
その一方で、
調整しなかった場合はどうなるか。
- 方針がぶつかる
- 本人が混乱する
- 上司との関係がこじれる
こちらは、はっきり問題として現れる。
だからこそ、
問題を起こさない人ほど、評価されにくい構造になる。
消耗は、静かに進む
調整役の仕事は、
一見すると「話をまとめているだけ」に見える。
でも実際には、
- 感情を受け止める
- 言葉を選ぶ
- バランスを崩さないようにする
といった、
見えない負荷が積み重なっている。
しかもそれは、
“感謝されにくい形”で発生する。
うまくいって当たり前。
問題が起きれば責任がくる。
この構造の中で、
少しずつ消耗していく。

「いい人」ほど引き受けてしまう理由
もう一つのポイントは、ここにある。
調整役になる人は、
- 断ることが苦手
- 放置することができない
- 全体を見てしまう
つまり、
**“やらない選択ができない人”**でもある。
だから、
本来は役割分担されるべき仕事も、
自然と引き取ってしまう。
構造は変わらない
ここで一つ厳しい現実がある。
この構造は、
個人の努力だけではほとんど変わらない。
- できる人に仕事が集まる
- 見えない仕事は評価されにくい
- 調整役は固定される
これは、
多くの組織で共通して起きていることだ。

では、どうすればいいのか
完全に避けることは難しい。
ただ、少なくとも
**「構造として理解しているかどうか」**で、
消耗の仕方は変わる。
- すべてを引き取らない
- あえて余白を残す
- “自分の仕事ではない領域”を意識する
これだけでも、
負担の偏りは少し変わる。
まとめ
現場の調整役は、
目立たない場所で、仕事を成立させている。
でもその役割は、
気づかないうちに固定され、
静かに負担が積み上がっていく。
「できる人に任せる」は、
一見合理的に見える。
ただそれは、
同じ人を消耗させ続ける構造でもある。
この違和感に気づけるかどうかが、
現場で長く持つかどうかの分かれ目になるのかもしれない。
そして、なぜか同じ人ばかりが調整役になり、消耗していく。
その構造はここまで見てきた通りだと思う。
ただ実際には、もう一つ見落とされがちな要因がある。
問題を大きくしているのは、“強い人”ではなく、むしろ“いい人”であることも多い。
一見すると無関係に見えるこのテーマは、現場のズレを理解するうえで避けて通れない。
次回 “いい人”が現場を壊すとき|産業保健のリアル|さんぽの裏側(第3回)
こうしたズレは、個人の問題というより組織の構造で起きています。
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