「小学生のときに出会えていたらよかったね」と言った日|共感と距離⑩

共感と距離の間

「共感と距離のあいだ」シリーズ 第10回

この記事は「共感と距離シリーズ」です。
人間関係の中で起きる共感と境界の問題について書いています。

「もし小学生のときに出会えていたらよかったね。」

そう言った瞬間、私は泣いてしまった。

自分でも驚くくらい、涙が止まらなかった。

初めて、「同じ種類の人」に出会った気がしたからだ。

小学生の頃の孤独と願い

子どもの頃、私は住む場所を変えることが何度かあった。

それまで慣れ親しんだ環境や友人と離れ、
新しい場所で人間関係を作ることは
言うほどは簡単ではなかった。

私は新しい環境に馴染もうとするたびに、
自分と同じ感覚を持つ大人や仲間に出会えたらいいのに、
と心の奥で願っていた。

だから今日、
その思いが現実になった瞬間は、
まるで夢の中にいるようだった。

現実か確認するため、頬をつねった方がいいのか、
とすら思った。

それと同時に、
胸にじんわり響き、思わず涙が出たのだ。

気づかなかっただけで近くにいた人

その日、ふと気づいたことがあった。

彼女のメイクが、私と少し似ていた。
服も、よく見ると同じようなブランドのものが多い。

どちらも、いわゆるファーストリテーリング系のシンプルな服だった。

だからといって、特別な意味があるとは思わなかった。
ただ、なんとなく感覚が近いのかもしれない、とそのときは思っただけだった。

その人とは、4年前に知り合った。
年に2〜3回会うくらいの距離感で、いつも明るく朗らかで、仕事の話もよく分かる人という印象だった。

一緒にいると、不思議と安心する空気があった。

でも、その日まで、ここまで深い話をしたことはなかった。

感受性の話。
考えすぎると言われた経験。
優しさを搾取されること。
機能不全の家庭で育ったこと。

話しているうちに、私は思い切って聞いてみた。

「もしかして、感受性が高いって言われたことありますか」

「浮いてるとか考えすぎって言われたりしますか」

「誠実なところを利用されてしまうこと、ありませんか」

「もしかして、機能不全の家庭でしたか」

彼女はあまり表情を変えず、でもすぐに言った。

「全部同じ。それ、わかる。」と。

気づいてしまう人が黙るまで

もう一つ、私たちには共通していた経験があった。

それは、若い頃に「おかしい」と思うことをそのまま口にしていたことだった。

「これは、なぜこうなっているんですか?」
「このやり方、少しおかしくないですか?」

私にとっては単純な疑問だった。
問題があるなら、直した方がいいと思っただけだった。

でも、周りの反応はいつも少し変だった。

説明してもらえるわけでもなく、
議論になるわけでもなく、
ただ、なんとなく空気が止まる。

「変なことを言っている人」という顔をされる。

そんなことが何度か続くと、だんだん分かってくる。

ああ、これは聞いてはいけないことなのかもしれない。

彼女も同じ経験をしていた。

「私もずっと言ってた。でも途中でやめた」

私たちは、だいたい同じ頃に黙るようになっていた。
20代の終わり頃だった。

それまでは疑問を口にしていたけれど、
周囲の反応を見て、少しずつ言うのをやめていった。

言っても議論になるわけではなく、
ただ空気が悪くなるだけだからだ。

気づいてしまう人は、
たいてい、こうして静かになっていく。
    

そして、もう一つ私たちには似ているところがあった。

それは、普段はなるべく「普通の人」に見えるように振る舞っていることだった。

彼女は少し笑いながら言った。

「普段は、なるべく素直で朗らかで明るい感じでいるようにしてる」

「普通の人に見えるように」

そして続けて言った。

「思考の部分は、あまり出さないようにしてる」

「なるべく混ざって、目立たないように」

それを聞いたとき、私は思わず笑ってしまった。

それは、私も同じだったからだ。

考えていることをそのまま出すと、
周囲との温度差が大きくなってしまう。

だから普段は、なるべく空気に合わせる。
普通の人のように振る舞う。

目立たないように。

混ざるように。

たぶん、こういう人は少なくない。

感受性が高く、
考えることが多い人ほど、
社会の中ではこうして静かに調整しているのかもしれない。

自分がおかしいのではないかと思う感覚

話していくうちに、もっと共通点が見えてきた。

彼女も、こう言っていた。

「同じタイプの人が周りにいないと、自分がおかしいのかなって思うよね。」

それは、私もずっと感じてきたことだった。

周りの人が何を基準に
人間関係や人生や仕事に向き合っているのか、
どうして良心がないように見える行動をとるのか、
なぜ倫理観がない人が偉くなっていくのか、
いつもよくわからなかった。

周りといつも何かが違う気がする。
でも、何が違うのか分からない。

そんな感覚を、ずっと抱えてきた。

似た人は似た人生をたどる

この話をしていて、私は改めて思った。

似たタイプの人は、同じような人生の流れをたどるのかもしれない。

感受性が高く、
倫理観が強く、
問題に気づきやすい人は、最初はそれを指摘する。

でも周囲との温度差に気づき、
途中から言うのをやめる。

そして、黙ったまま、
それでも責任感で仕事を引き受けてしまう。

その結果、優しさや能力を搾取され、
疲れ切ってしまう。

彼女が会社を辞める理由も、
私ととてもよく似ていた。

彼女も、つい先日会社に退職を申し出たという。

私たちのような人は、組織の中で次のような流れに入りやすい。

問題に気づく。
改善しようとする。
仕事を引き受ける。
周囲がそれに頼る。
仕事が増える。
そして、限界まで頑張ってしまう。

気づいたときには、疲れ切っている。

彼女の話を聞いていて、私は思った。

同じ体験を、同じように受け取り、同じように考え、同じような結果になる。

それは、偶然ではないのかもしれない。

人ではなく構造を見る人

もう一つ印象的だったのは、物事の見方だった。

彼女は大学で社会学を専攻していたそうで、社会問題や歴史の話にも詳しかった。

戦争や政治の話、社会保障や税金の話など、
普通の雑談ではあまり出ない話題も自然に出てきた。

そして、こんな話になった。

「環境が同じなら、どんなにいい人でも同じことをしてしまうことがある。」

これは、私もずっと感じてきたことだった。

問題を人の性格だけで説明するのではなく、
環境や構造の影響を見る。

そういう視点も、私たちはよく似ていた。

6時間があっという間だった

気がつくと、6時間が経っていた。

時間が過ぎるのが、とても早かった。

無理に話題を合わせる必要もなく、
言葉を選びすぎる必要もなく、
ただ思ったことを話していた。

そして帰り際、私はふとこう言った。

「もし小学生のときに出会えていたらよかったね。」

その瞬間、涙が出た。
自分でも驚くほど涙が出た。

小学生の頃の私、そして今もだけど、
ずっと自分が少し浮いている気がしていた。

でも、もしあの頃、同じタイプの人が近くにいたら。

少なくとも、もっと早くに、
自分がおかしいわけではないと分かったかもしれない。

同じ種類の人は、きっとどこかにいる

小学生の頃の私は、周りと少し違う感覚を持っていた。
何が違うのかは分からないけれど、どこか浮いているような気がしていた。

その頃、心のどこかで思っていた。

もし、自分と似たような気持ちを持った大人に出会えたらいいのに。

でも当時は、そんな人が近くにいるとは思えなかった。

だから44歳になった今日、その思いが現実になった瞬間、
胸の奥に残っていた時間が、静かにほどけたような気がした。

私たちは少数派なのかもしれない。

感受性が高く、
内省的で、
倫理観が強く、
問題を見ると深く考えてしまう。

そういう人は、周りの空気に合わせて、途中で黙るようになることも多い。

でも今日、私は気づいた。

同じ種類の人は、きっとどこかにいる。

ただ、気づいていないだけで、
案外、近くにいるのかもしれない。

そして、もし出会えたら。

その時間は、
きっと、あっという間に過ぎてしまう。


人と話していて、こんな感覚になることはありませんか。

「共感はできる。でも、なぜか疲れる」
「相手の状況は理解できる。でも、話していて前に進まない」

次回の記事では、
そんな違和感の正体を言語化しています。

同じように問題を抱えていても
現実を“構造で扱う人”と“感情で抱え続ける人”がいること。

そしてその違いが、
なぜ会話の疲労感として現れるのか。

「理解すること」と「距離を取ること」は両立できるのか。

そのあいだにある、少し繊細なバランスについて書きました。

もし最近、人との会話で
言葉にできない引っかかりを感じているなら、
ひとつの整理の材料になるかもしれません。


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帰国してから、どこか噛み合わない。
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この構造については別の記事でも書きました。
会社で壊れていく優秀な人について構造で解説


人間関係の中で起きる共感と距離の問題については、シリーズでも書いています。

▶共感と距離シリーズ一覧


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