第2話:バリ編
- サヌール
- バリでの滞在
退職後、最初の旅先に選んだのはインドネシアのバリ島だった。
ここ数ヶ月、人生が大きく動いた。
環境も、人間関係も、自分自身の考え方も変わった気がする。
だから今回の旅では、何かを成し遂げたいわけでもなく、ただ穏やかに過ごしたかった。
そして実際にバリへ来てみて思った。
「ああ、ここを選んで良かったな」と。
日本とはまったく違う朝
ホテルの向かいの木には、アナツバメの巣があるようだった。
朝になると、たくさんのアナツバメたちが一斉に飛び回る。
おそらく虫を捕まえているのだと思う。
飛行中に木の実にぶつかるのか、道路には細かな木の実のかけらがたくさん落ちていた。
その様子を眺めながら朝食を食べた。
鳥の鳴き声。
道路を行き交う通勤のバイクや車のエンジン音。
時折漂うプルメリアの花の香り。
タバコの匂いと、南国らしい少し甘い香水の香り。
そして道端には、バリ島伝統のお供え物。
朝になっても空気はほとんど涼しくならず、生暖かい。
日本とはまったく違う朝だった。

青いTシャツのおじいさん
5月14日、海へ行こうと思いホテルの前でGoogleマップを見ていた。
すると、青いTシャツのおじいさんが声をかけてくれた。
「まっすぐ行って、壁沿いに左へ行けば海に抜けられるよ」
言われた通りに歩くと、本当にすぐビーチへ出た。
真っ青で透明というわけではない。
でも十分にきれいだった。
海へ入ってじゃぶじゃぶ泳ぎ、その後は海沿いを散歩しながらモールまで歩いた。
濡れた体のままホテルへ戻り、シャワーを浴びて昼寝をした。
その後はホテルのプールで泳ぎ、空を見上げながら生暖かい空気を感じていた。
海辺で出会った人たち
散歩の途中、海へ突き出した小さな海の家のような場所へ立ち寄った。
屋根だけが付いた簡素な建物で、潮風がそのまま吹き抜けていく。
そこでフィフィさんという女性と話した。
彼女はヒジャブを身につけていて、スマトラ島から来たという。
週末に開催される1200人規模のトレイルラン大会へ参加するためにバリを訪れていた。
バリ島のヒンドゥー文化の中で、スマトラ島出身のムスリムの女性と話している。
インドネシアという国の大きさと多様さを、少しだけ感じた瞬間だった。
その後は、近くで釣りをしていた小学生くらいの男の子たちに囲まれた。
どこから来たの?
何歳?
一人で来たの?
次々と質問が飛んでくる。
最初は少し警戒した。
何か取られたりするのだろうか、と。
でもしばらくして気づいた。
ただ純粋に興味を持って話しかけてくれているだけだった。
この場所は、自分が思っていた以上に平和な場所なのだと思った。
生暖かい風の中を歩く
翌朝は海沿いの散歩道を歩いた。
生暖かく湿った海風が肌にまとわりつく。
時折、プルメリアの花の香りが漂う。
歩道は自転車用と歩行者用に分かれていた。
鳥の声。
バイクのエンジン音。
海風。
人々の気配。
南国の朝は静かなようでいて、たくさんの音と匂いに満ちている。
その中を歩いているだけで、不思議と心が落ち着いた。
夕方にもう一度会った
後になって分かったのだが、青いTシャツのおじいさんは向かいのヴィラホテルに泊まっている人だった。
夕方、再び海へ向かおうとした時、おじいさんは涼みに外へ出ていた。
私に気づくと笑顔で声をかけてくれた。
「道、わかったみたいだね!よかったよ!」
オーストラリア訛りの英語だった。
その何気ない一言が嬉しかった。
旅先で記憶に残るのは、有名な観光地よりも、こうした小さな親切なのかもしれない。
穏やかに旅ができるということ

仕事を辞めてから初めての海外旅行。
こんなにも穏やかな気持ちで旅ができるなんて、少し前の私は想像していなかった。
何かを急いで決めなくてもいい。
誰かに合わせなくてもいい。
ただ海を歩き、鳥の声を聞き、生暖かい空気を感じる。
それだけで十分だと思えた。
バリ島を選んで、本当に良かった。
人生の転換点に、この穏やかな時間を過ごせたことを、きっと私は長く覚えていると思う。
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この時はまだ知らなかった。
到着した日がインドネシアの大型連休初日だったことも、数日後のジャワ島での洗礼も。
バリ島での静かな時間を過ごした後、私は世界遺産ボロブドゥールの玄関口であるジョグジャカルタへ向かう。
その移動の様子や、出国の成田空港で慌ててe-VOAを取得した話、そしてこの街が持つ歴史については、次の記事に書いている。
▶︎ バリ島からジョグジャカルタへ――退職後最初の旅の続き
▶ 退職後の旅シリーズ全話一覧はこちら


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