新しい生活が始まったのに、心だけが追いつかなかった|移住⑫

移住の選択と思考

移住という選択と思考シリーズ 第12回

人生には、「決断したら終わり」ではなく、「決断してから始まる時間」がある。

新しい街。

新しい暮らし。

新しい人間関係。

新しい目標。

外から見れば、順調に前へ進んでいるように見える。

でも、その一方で、理由もなく涙が出る日がある。

自分でも何が苦しいのか説明できない。

ただ、胸の奥が少し重い。

そんな時期がある。


本当に大変なのは、決断したあとの毎日

私たちは「変化」を選ぶとき、その決断の瞬間ばかりに意識が向きやすい。

でも、本当に大変なのは、その後かもしれない。

住所変更。

役所での手続き。

税金や保険。

新しい病院。

生活用品を揃えること。

仕事や収入の見通し。

一つひとつは小さな出来事でも、それが積み重なると心は思っている以上に疲れていく。

しかも、その疲れは「忙しい」という形ではなく、「なんとなく気力が出ない」という形で現れることがある。


「弱くなった」のではなく、抱えるものが増えた

さらに、人生の転換期には、環境だけではなく「自分自身」も変わっていく。

以前なら迷わず進めたことに時間がかかったり、

昔のような勢いがなくなったように感じたり、

「こんなに弱かっただろうか」と自分を疑ってしまうこともある。

でも、それは弱くなったからではない。

背負っているものが増えたからだ。

失ったもの。

手放したもの。

新しく抱えたもの。

それらを全部持ったまま前へ進もうとしているのだから、足取りが重くなるのは自然なことなのかもしれない。


人は「安心した時」にも涙を流す

ある日、久しぶりに連絡を取った友人から、

「いつでも遊びにおいで。」

そんな一言をもらった。

その瞬間、涙が出た。

きっと、人は悲しい時だけ泣くのではない。

安心した時も泣く。

張りつめていたものが少しほどけた時も泣く。

「自分を待っていてくれる人がいる。」

その事実だけで、救われることがある。


前へ進みながら、過去を見送っている

最近思う。

私は前へ進めないのではなく、

「前へ進みながら、これまでの人生を見送っている」のかもしれない。

新しい生活は始まっている。

でも、心はまだ古い生活に静かに手を振っている。

だから、ときどき涙が出る。


新しい自分に慣れていく時間

人生には、走る時期がある。

立ち止まる時期もある。

そして、荷物を抱え直しながら、ゆっくり歩く時期もある。

そのどれもが、「前へ進んでいる途中」なのだと思う。

もし今、自分だけが立ち止まっているように感じる日があったら、思い出してほしい。

変化とは、新しい場所へ行くことではない。

新しい自分に慣れていく時間、そのものなのだから。


移住の選択と思考シリーズ|全話はこちら
環境を変えたいのか、それとも人生を変えたいのか。


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