このシリーズでは、
「なぜ、優しい人ほど職場で消耗していくのか」をテーマに、
実体験と心理構造の両面から掘り下げています。
第一部では組織構造を分析し、
第二部では「自分を取り戻すプロセス」を描いています。
読み進めることで、
「我慢するしかなかった自分」から
「選び直せる自分」へ向かうことを目指しています。
今回は― “守られない職場”の心理構造 ―を解説します。

はじめに
「この件について、ノアさんなら知っていると思います」
会議の場で、そんなふうに私の名前が出されたと、あとから聞きました。
私はその場にいませんでした。
事前に相談もされていません。
確認もありませんでした。
ただ、“詳しそうな人”として、勝手に名前が使われていました。
結果として私は、後日、別の社員から詰問されることになります。
「なんであのシステムは外されたんですか」
「あなたが知っているはずですよね」
私は、その決定をした本人ではありません。
詳しい経緯をすべて把握しているわけでもありません。
それでも、「知っているはずの人」として、矢面に立たされました。
当時は個人的な問題と現象だと思っていましたが、
後から見ると
これは組織が安定を維持しようとし続けた際に起きる
典型的な副産物でした。

「悪気はなかった」という言葉の裏側
後日、上司に確認しました。
すると
全く悪気はない様子で、返ってきたのは、こういう言葉でした。
「ノアなら知っていると思って」
「困ったから、名前を出しただけ」
一見すると、まったく悪意はなさそうに聞こえます。
一見、個人の性格の問題に見えますが、
実際には
ある組織構造によって誘発される典型的な現象なのですが
ここには大きな問題があります。
それは――
説明すべき立場の人が、説明責任を放棄しているということです。
本来、その場で説明すべきだったのは上司です。
わからないなら、「確認します」と言えばよかった。
それなのに、
「詳しそうな部下の名前を出す」
という形で、その場をやり過ごした。
結果、困るのは部下だけです。

困ったら部下を出す上司の心理構造
こうした行動をとる上司には、共通する心理があります。
評価を失うことへの強い恐怖
このタイプの上司は、常にこう考えています。
「上からどう見られるか」
「評価を落とさないか」
だから、上司や経営層からのメールには即返信します。
代理での回答依頼にも即対応します。
一方で、部下からの相談やメールは平気で後回しにする。
理由は単純です。
“返さなくても困らない相手”だからです。
人ではなく、評価リスクで相手を見ています。
責任を一人で背負うのが怖い
問題が出た瞬間に考えるのは、
「これ、自分の責任になる?」
YESだと感じた途端、回避行動に入ります。
そこで出てくるのが、
「〇〇さんが詳しい」
「ノアなら知っている」
という言葉でした。
責任を分散させたい。
一人で背負いたくない。
その防衛反応として、部下が使われます。
実は、よく分かっていない不安
こういう上司は、本人がきちんと物事を理解していないことも多いです。
説明を求められると困る。
理解が追い付いていないので答えられない。
だから、「きちんと分かっていそうな人」に丸投げする。
「ノアなら知っていると思った」
という言葉は、
「私は説明できません」
という無言の告白でもあります。
有能な部下への無意識の依存
真面目で、説明できて、対応力がある部下ほど、狙われます。
・何とかしてくれる
・波風を立てない
・責任感が強い
こうした人は、便利な存在になります。
困ったらこの人。
詰まったらこの人。
矢面はこの人。
悪気なく繰り返される分
問題をふられた部下は切り捨てられたと感じ深く傷つきます。
ただ、これは特殊な出来事ではなく、
組織では一定条件が揃うと自然に起きる状態です。
対立を避けたい弱さ
攻撃的だったり、声の大きい相手に対して、真正面から向き合えない。
だから、
「強い相手には逆らわず、弱い立場の身内を差し出す」
という行動になる。
これは調整でも配慮でもありません。
単なる責任逃れです。

「優秀さ」が裏目に出るとき
皮肉なことに、
この役割を任される人は優秀です。
・情報整理ができる
・調整ができる
・誠実
・途中で投げない
だからこそ、
周囲は安心して押しつけます。
でもそれは、
信頼ではなく“依存”です。

被害を受けるのは、いつも現場の人
この構造の中で、部下には何が起きるか。
・突然の詰問
・業務の中断
・説明責任の押し付け
・評価リスク
・慢性的な疲弊
私は、業務で忙しい中、関係のない対応に時間を取られました。
正直、かなり迷惑でした。
だから私は、上司にこう伝えました。
「今後、勝手に名前を出さないでください」
「確認が必要なら、当事者本人に直接聞いてください」
これは反抗ではありません。
自分を守るための、正当な境界線です。
勝手に私に押し付けられた説明責任を上司に返すのです。

「守られない職場」は、こうして生まれる
困ったら部下を差し出す上司がいる職場では、次のことが起きます。
・有能な人ほど疲弊する
・責任を取らない人ばかりが残るか昇進する
・信頼が壊れる
・挑戦する人がいなくなる
最終的に、組織は静かに弱っていきます。
もし、あなたが同じ状況にいるなら
もしあなたが、
・勝手に名前を使われる
・説明役にされる
・盾にされる
・守られない
そんな経験をしているなら。
それは、あなたが悪いのではありません。
あなたが無能だからでも、弱いからでもありません。
組織構造上の問題なだけです。
ここまで読んで、
あらためて
あなたは上司から守られていないと気づいたと思います。

守られない職場で生き残るため
もし、同じ立場にいるなら――
・責任を定位置に戻す
・記録を残す
・いやだと思ったら引き受けない
・曖昧な依頼は断る
これが必要です。
都合の「いい人」でいるだけでは、
どんどん浸食され奪われ続け、さらに守ってもらえません。

おわりに
「悪気はなかった」
この言葉ほど、無責任な免罪符はありません。
悪気がなくても、傷つく人はいます。
悪気がなくても、上司と部下の信頼は壊れます。
管理職とは、本来、部下を守る立場です。
部下の仕事の責任も、最終的には管理職が負うものです。
管理職にはその責任を引き受ける覚悟が求められるのではないでしょうか。
守れないなら、せめて盾にしてはいけない。
私は、そう強く思っています。
ここまで、
「説明できない上司」
「部下を盾にする構造」
「守ってくれないマネージャー」
について書いてきました。
でも、ここまで読んでくださった方の中には、
こんな疑問が残っているかもしれません。
「なぜ私は、こんな職場に長く居続けてしまったんだろう」
「なぜ、もっと早く離れられなかったんだろう」
次回は、
“守られない職場から離れられなかった私自身”の心理に、
正面から向き合います。
▶ 第7回
『「なぜ私は「限界まで頑張らされていた」のか
― 心理操作と組織構造の両面から“追い詰められる職場”』
誰にも理解されなかった感覚が、
ここで少しでも言葉になっていたなら嬉しいです。
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