※この記事は
第一部|組織と依存の構造
「感受性の高い人の仕事の見え方」シリーズの第3回です。
▶ 第1回|やさしくて仕事のできる人ほど、会社で静かに消耗する
▶ 第2回|感受性の高い人と低い人の働き方の違い ― 過去・現在・未来の視点から考える ―
▶ 第3回|抽象思考の人ほど、職場で消耗していく理由―「翻訳役」になってしまう構造―
▶ 第4回|記憶力がいい人ほど、職場で消耗していく理由―「説明係」になってしまう構造―
▶ 第5回|危険を読む人ほど、前に出られなくなる
▶ 第6回|同じ職場なのに、なぜこんなにしんどいのか
▶ 第7回|なぜ組織は「見ないふり」をするのか
このシリーズでは、
「なぜ、優しい人ほど職場で消耗していくのか」をテーマに、
実体験と心理構造の両面から掘り下げています。
第一部では、組織・人間関係・依存構造の問題を分析し、
第二部では、自分の人生を取り戻すための視点を整理していきます。
読み進めることで、
「我慢するしかなかった自分」から、
「選び直せる自分」へ変わっていくことを目指しています。このシリーズでは、
「感受性が高く、まじめで、仕事に誠実な人」が
なぜ職場で消耗しやすいのかを、構造的に書いています。
今回は、抽象的に考えられる人ほど、なぜ職場で消耗しやすいのかについて整理してみます。
会話が噛み合わないのは「頭が悪いから」ではない
抽象と具体のレイヤーが違うだけ
産業保健師としての面談や、クラウド型システム導入プロジェクトで、繰り返し起きていたことがあります。それは、抽象的な説明しかできない指示系統のマネージャーの代弁者として動かされるという役割でした。
指示系統のマネージャーは、「全体の意図」や「目的」については語ります。しかし、現場で具体的に何をすればよいのかを言語化できません。その結果、私がその抽象を具体に落とし、現場に伝える役割を担うことになります。
指示系統マネージャーと現場は、話しているテーマ自体は同じです。けれども、頭の中で扱っている階層が違うため、会話が噛み合いません。私は常にその間に立ち、調整役として走り回る心理状態でした。
心と頭の中では、1階から3階に上り、また3階から1階に降りる。そんな行き来を何度も繰り返している感覚がありました。

翻訳役になる抽象思考者
一般的に、抽象化と具体化の両方ができる人は、無意識のうちに相手が理解できるレベルまで話を落とし、通訳する役割を担うことになります。
たとえば、指示系統マネージャーがプロジェクトの業務改善の意図を説明したあと、同僚から「具体的に、誰が何をするのですか?」という質問が出る。伝わっていない空気を察知し、私が再度言い換えて説明する。こうした場面が何度もありました。
抽象化できる人ほど仕事量が偏る
説明・調整・尻拭いを引き受ける構造
具体しかわからない人が多い職場では、抽象化できる人が「勝手に」仕事の穴を埋めることになります。
私の場合、クラウド型システム導入において、
- ベンダーとの打ち合わせ
- 同僚看護職への説明
- 各事業場マネージャーとの調整
- 資料作成
といった業務を、自然と引き受ける形になっていました。

要求がエスカレートする瞬間
私が、指示系統マネージャーの補佐として準備した説明用資料や整理手順は、当初は現状と改善案をまとめたシンプルなものでした。
ところが、具体しかわからない同僚やそのマネージャーから、次のような要求が次々に出てきました。
- 過去の手順ややり方、フローも同じ形式でリスト化してほしい
- 現在の資料と過去の資料の比較表を作ってほしい
- 改善案ごとの影響度も数字で示してほしい
- この表を部門ごとにも分けてほしい
最初は1つだった資料が、要求の積み重ねによって増殖し、資料作成の手間は際限なく膨らんでいきました。
その過程で、同僚看護職や各事業場マネージャーからは、
- 「わたしたちはやらない」
- 「あなたがやるべき」
といった言葉を向けられることもあり、無言の圧力も感じていました。
年間スケジュールと明確な期日がある業務である以上、締め切りを落とすわけにはいきません。私は、全体最適の視点で必要な情報を整理し続けるしかありませんでした。

問題は能力ではなく思考の階層
能力や性格のせいにされやすい理由
こうした会話や仕事の偏りは、能力の差ではありません。抽象化できる人と、具体しかわからない人が混在していることによって生じる構造的な問題です。
また、具体しかわからない人に提案をしても、質問が繰り返されるばかりで、解決策を生み出す思考回路につながらないことが多い。そのことにも、途中で気づきました。
相談しているはずなのに、最終的には自分で解決しなければならない。この感覚が、強い閉塞感につながっていきます。
不毛なレッテル貼りの構造
その結果、
- 具体側から見ると、抽象側は「業務改革で平穏を壊す、めんどくさい人」
- 抽象側から見ると、具体側は「なぜ話が通じないのか分からない人」
という相互のレッテル貼りが起こります。
実際、私は会議で意見を述べても声をかぶせられ、最後まで話せないことが増えていきました。提案内容ではなく、態度や地位によって人格や行動を判断される。そんな瞬間を何度も経験しました。
言っても声をかぶせられ閉口することが多くなり、提案内容より態度や地位で人格や行動を判断される瞬間がありました。

組織は具体レベルに引きずられていく
目的が共有されず、毎回ゼロから説明が必要になる
抽象化できる人が少ない職場では、目的や意図が共有されにくくなります。
その結果、
- 「なぜそれをやるのか」ではなく
- 「今回はどうするのか」という具体論だけ
が残り、同じ説明を何度も繰り返す状態が生まれます。
私自身、産業保健システムの導入に関わる中で、次の前提を何度も説明し直していました。
- このシステムで 何を改善したいのか
- どの業務を どう変えたいのか
- なぜ今、この取り組みが必要なのか
説明を重ねても、次の会議ではまた話が振り出しに戻る。
そのたびに「考えすぎ」「理屈っぽい」と言われることもありました。
けれど実際には、私はただ
全体の整合性や、同じ問題を繰り返さないための視点を共有しようとしていただけでした。

属人化・場当たり対応が増え、改善が進まない
具体レベルに留まり続ける組織では、改善はどうしてもその場しのぎになりがちです。
- 仕組みを整えるより
- 誰かが頑張って埋め合わせる
という状態が常態化していきます。
結果として、次のような流れが生まれます。
- 業務が属人化する
- 引き継ぎが曖昧になる
- 問題が起きるたびに同じ対応を繰り返す
この構造で、いちばん消耗する人
この構造の中で最も消耗するのは、
- 全体を何とか整えようとする人
- 先回りして考えてしまう人
- 責任感のある、やさしい人
です。
「気づいてしまう人」「見えてしまう人」ほど、
静かに負担を引き受けていきます。
抽象化できる人が少ない職場では、目的や意図が共有されず、同じ説明を何度も繰り返すことになります。私も産業保健システム導入で、毎回説明をやり直す必要がありました。
属人化・場当たり対応が増え、改善が進まない
具体レベルに留まる職場は、改善の視点が後回しになり、属人化や場当たり対応が増えます。その結果、仕事の効率は上がらず、責任感のある人ほど消耗していく構造ができあがります。

私が「変えなかったこと」
やさしい人が消耗する構造を放置してしまった経験
振り返ると、私は無意識のうちに
翻訳役・調整役を引き受けていました。
- 抽象と具体の間を行き来し
- 言葉を噛み砕き
- 場が回るように整える役割
「誰かがやらなければ回らない」
そう思って引き受け続けた結果、私は次第に
「それをやる人」
として固定化され、慢性的な疲弊につながっていきました。
構造そのものに踏み込まず、
「自分が頑張れば何とかなる」という状態を、
結果的に温存してしまったのだと思います。

改善に踏み込んで、初めて見えたこと
その後、業務整理や会議運営を見直す中で、
あるシンプルな事実に気づきました。
それは、次の点を明確にするだけで、
仕事の偏りが大きく減るということです。
明確にすべき3つのこと
- 誰が意思決定をするのか
- 誰が情報をまとめ、誰にどう伝えるのか
- 今、どのレイヤー(抽象/具体)の話をしているのか
簡易図解:混乱が起きる構造
[抽象:目的・意図]
↓(翻訳)
[具体:作業・手順]
↓
[現場対応]
この「翻訳」を、無意識に一人が担い続けると、
負担は必ず偏ります。

個人の善意ではなく、構造を整える
個人の能力や善意に頼るのではなく、
- 役割を明確にする
- 情報の階層を意識する
- 抽象と具体を意図的に分ける
こうした構造的な整理があって初めて、
「考えすぎる人」が消耗しない組織
に近づくのだと思います。

次回は、「記憶力がいい人ほど疲れてしまう構造」について書く予定です。
また違うタイプの“消耗の形”を整理していきます。


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